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本編
私はスカコ。
44歳の既婚会社員だ。
夫ケイタと娘マナ、ミコの四人家族、
ほんとうにどこにでもいる普通の家族。
そう思い込んでいた。
でも、それは私だけだったらしい。
ケイタ「スカコには悪いと思っているよ。
マナもミコも可愛いし、
俺には最高の妻と娘だ。でも」
スカコ「その最高の妻と娘と別れてでも、
一緒になりたい女性がいるのね」
16歳と14歳になる娘たちが寝静まった後、
私はケイタとリビングで
顔をつき合わせていた。
話し合いの内容は、
ケイタの浮気について。
切り出したのは、実は私だ。
夫の様子がおかしいと気づいたのは、
確か半年くらい前だと思う。
結婚後は、共働きで家事育児にも協力的、
何か行動する時には必ず家族一緒で。
そういう人だった。
娘達にも愛情を持って接してくれたと思う。
年頃の女の子が、父親を嫌うというのは
よく聞く話だが、我が家の場合は
そんな事は無かった。
マナもミコも、中学に入学しても変わらず
マナ「パパ、今日ね」
ミコ「あ、お姉ちゃんずるい!
私もパパにお話ししたい事があるのに」
話し相手としての父親を
取り合うほどだった。
その気持ちは、よく分かる。
私も、彼の聞き上手なところに惚れ込んで、
結婚相手はこの人だと思ったのだから。
ケイタと出会ったのは、
今から6年前。
大学時代の友人が企画した
バーベキューイベントに、
友人の友人という立場で
彼が参加して来たのがきっかけだった。
ケイタはとても優しくて、
人づきあいがうまい人だった。
初めて会う人には、男女問わず
人見知り傾向がある私も、
彼とは不思議と会話が弾んだ。
彼は聞き上手で
ケイタ「へぇ、それから?」
「どうなったの?」
会話の折々に、
絶妙に合いの手を入れてくれた。
話の落ちまでじっくり聞いて、
欲しいリアクションも返してくれた。
驚いて欲しい時は
ケイタ「うわ!
そんな結末になったんだ!」
と、少し大げさなくらいに
驚いてくれたし、身を乗り出して
興味を示してもくれた。
話す側の気持ちを、
すごく適切につかんでいるというか。
彼の聞き上手に、私はいつのまにか、
自分が人見知りぎみだというのも
忘れたほどだった。
その後、意気投合して
二人で会うようになった。
ケイタは、私なら選ばないような店にも、
積極的に連れて行ってくれた。
行った事がなかったバンドのライブ、
一人じゃ足を運ぼうとも
思わなかっただろう美術館、動物園まで。
世界が広がった気がした。
ケイタ「スカコ、結婚して欲しい」
プロポーズは、
夜景が見える公園でだった。
私が、軽く理想を話した事を、
彼は覚えていて、心に描いていた通りの
状況を演出してくれたっけ。
感激して泣いたのを覚えている。
ケイタ「幸せな家庭を築こう。
俺は、君と二人で幸せになりたい。
子供が出来たら、二人で可愛がりたいんだ」
何でも二人で。
彼はそう言って、優しく笑っていた。
言葉の通り、第一子のマナ、
第二子のミコ、二人の出産時には
進んで立ち会った。
ケイタ「スカコ、お疲れ様。
可愛い娘を産んでくれて、ありがとう」
どちらの時も、出産直後で
体力を使い切り、ぐったりした
私の手を握ってねぎらってくれた。
どきどきした顔で、慎重に
新生児を抱っこする姿も、
未だに鮮明に思い出せる。
稼ぎがとてもいいというわけではなく、
どちらかといえば出世欲が無さそうで、
仕事より家庭というタイプのケイタ。
娘達を平等に可愛がり、
家族でお出かけも面倒がらず、
楽しそうに家庭生活を満喫している、
そういう風に見えていた。
ところが、急に雰囲気が変わった。
この半年の間、
とにかくスマホを手放さないのだ。
これが一番変わったところだろう。
スカコ「ちょっと、あなた。
食事中にスマホみるの止めて」
子供達には禁じておきながら、
自分は手に持った端末の画面をちらちら。
食事に集中しないどころか、
食べるのを止めてしまう事もあった。
ケイタ「え?
あ、ああ。ごめん。
仕事の大事なやり取りしてるところだから」
絵に描いたような家庭人だったはずの
彼が、口を開けば仕事仕事。
これも違和感だった。
みるみるうちに、残業と称して
帰宅が遅くなる。休日出勤が激増する。
そんな兆候が出て来た。
マナ「近頃、パパおかしくない?」
ミコ「おかしいよね。
二日連続で、夜11時帰りなんて、
そんなの今まであった?」
娘達にも疑問の視線を向けられる始末だ。
そのうち、出張も言い出すんじゃないかと
親子三人で言っていたら。
ケイタ「週末、出張する事になった」
びっくりするタイミングで、
本当に出張があるとの事。
そんなばかな。
私は、いくら何でもおかしいと首をひねった。