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本編

まずは夫の行動パターンを監視。

夜な夜なヤツがぐっすり

寝入った頃を見計らって、

指紋認証でスマホの中をチェックする。

 

一か月もしないうちに、

二人の計画が明らかになった。

季節は冬、シュウの

誕生日が近づいている。

 

邪魔な私を何とか出し抜いて、

二人でお祝いしようという

話を打ち合わせていた。

シュウもマミカも、

私がとっくに気づいているとは

夢にも思っていないらしい。

まぁ、堂々と誕生日パーティの

話を進めている。

 

よーし分かった。

出し抜くまでもないわよ、二人とも。

こちらから、姿を消してあげるからね。

ただし、お人よしに

時間を作ってあげたりは

しないけれども。

 

スカコ「ねえ、もうすぐ

あなたの誕生日よね。

何かしようかなって思ってるんだけど」

 

私が水を向けると、

シュウはとても歯切れが悪そうに

 

シュウ「え?

あ、ああ。ありがとう。

でもさ。俺も34歳になるわけだし、

もうそろそろ誕生日パーティは

卒業かなって」

 

ぼそぼそ返事をして来た。

誰も、誕生日パーティやるなんて

言ってないのにねぇ?

思いっきり白状しちゃってるわ。

まぁ、今そこをつついても、

あまり意味は無いのでスルー。

 

スカコ「そう?

ある意味、助かるわ。

実はね、シュウの誕生日付近って、

出張になるかもな感じなのよ」

 

シュウ「マジ!?」

 

ぱぁっと明るくなる夫。

露骨だわぁ、傷つくわぁ。

 

スカコ「まだ決まってないんだけど、

内々に打診されててね。

ほら、私の仕事って、

地方にも拠点があるじゃない?

独身時代は時々あったでしょ、

2~3日程度の出張」

 

シュウ「そういえばそうだったな。

あ!?最近は行ってなかったのって、

結婚したから?」

 

スカコ「そうねえ。

ほんとはね、出張が多い方が

出世には有利なんだけど、

家庭優先して断ってたのよ」

 

そんな話はないけどねー。

適当に言ってみた。

シュウはぐいっと身を乗り出してきた。

 

シュウ「そんな大事な話、

もっと早く言ってくれれば良かったのに!

出世に関わるんだったら、

断るなんてもったいない」

 

スカコ「そう?」

 

シュウ「そうだよ、スカコの出世は、

俺にとっても嬉しい話だ。

行きなよ!

ぜひ行ってきなよ!」

 

物凄いノリノリな態度で、

シュウは私に出張を勧める。

まぁね、愛しのマミカちゃんと

パーリーナイッ!したいんだもんね。

 

SNSによると、どうやって

私を出し抜こうか頭を悩ませている最中らしいし、

そりゃ見逃す手は無いよね、不倫カップル的には。

もちろん、それを踏まえての

「罠」なんですけどね。

 

嬉しさを隠しきれてない夫が、

それはそれは熱心に出張へ行け

というものだから、私は折れた。

振りをした。

 

スカコ「分かった、じゃあ明日、

部長に返事するわ。

誕生日に一緒にいられないのは残念だけど」

 

シュウ「いいんだよ、気にしないで。

それに、パーティは帰って

来てからでもいいじゃないか」

 

もうすっかりパーティをする気満々、

私はそんな提案なんか一ミリも

していないのに、いつのまにか

そんな話になっちゃってる。

 

ここまで浮かれるほど、

マミカちゃんとのラブラブパーリーナイッ!

が大事ですかそうですか。

ま、いいわ。

 

スカコ「ありがとう、シュウ」

 

シュウ「頑張っておいでよ」

 

にっこにこの夫に励まされ、

私は何だかなぁという気分を抱きながら、

出張という表向きの、

実は有給休暇申請を決めた。

 

この日の夜、夫はスマホを

がっちりわしづかみにして、

ランニングに出かけて行った。

 

忘れ物の反省を生かしているつもり

なんだろうけれど、甘いわぁ。

ロック解除の手段を掴んだ私にとっては、

その程度の警戒なんか警戒のうちに

入らないってなものよ。

 

深夜になって、ランニングで

疲れきった夫がそそくさと

寝てしまった頃、私はむくり。

さっそくロックを突破して、SNSの中身を見る。

 

シュウ「俺の誕生日、嫁が出張だって!」

 

マミカ「マジで!?

やったぁ!」

 

シュウ「空気読めない女だけど、

今回は珍しく気をきかせたな。

うちでたっぷり楽しもうぜ」

 

マミカ「嬉しい!」

 

……良く言うわ。

ほんと、寝顔に向かって、

スマホを投げつけてやろうかと思ったわよ。

おまえこそ空気読めって言ってやりたい気分。

そんな都合がよい偶然、あってたまるか。

普通は少しくらい疑うんじゃないの?

それにも頭が回らないのか、

この不倫バカップルは。

 

私は、暗闇の中で作戦名を考えた。

名付けて、いま流行のポリコレ作戦。

「ポ」イっと捨てちゃる!

「リ」コンがふさわしいわ

「コ」のバカ夫と浮気相手

「レ」ッツ制裁

なんてね。

誕生日、首を洗って待ってろ!

 

何事もなかったかのように

日々を過ごし、あっというまにカラ出張当日。

いやぁ、初めてだわ、出張の振りだなんて。

けっこうドキドキするもんだわね。

カラ出張とは言っても、

会社をだましたわけじゃない。

 

れっきとした有給休暇だもの、

少なくとも会社に対して

罪悪感を感じる必要はない。

そうとは分かっていても、

やっぱり心臓はバクバクいっている。

 

スカコ「じゃ、行って来るね。

誕生日おめでとう」

 

シュウ「ありがと、その言葉だけで嬉しいよ。

じゃあ気を付けて行っといで。

帰りは明後日だよね?」

 

スカコ「予定ではね」

 

シュウ「もしかして、長引く可能性あるの?」

 

スカコ「うーん、仕事次第かなぁ。

ほら、先方の都合ってものもあるから」

 

シュウ「それもそうだな。

先方の都合があるなら、

無理に帰って来なくても大丈夫だよ」

 

分かりやすい。実に分かりやすい。

もうね、暗に帰って来るなと

言ってるようなものなんだけど。

何なら一か月くらい行ってこいとか、

そんな心境なんだろうか、夫ってば。

 

複雑な気分を味わいながら、

私はスーツケースを持って家を出た。

駅を目指して歩く、と見せかけて。

真冬で辛いんだけど、

うちが入居している賃貸アパート付近にある

公園のベンチに腰かけた。

 

出張準備の振りをしながら、

周辺を確認していた私。

何しろ、浮気相手の自宅連れ込みは

間違いないところ。

自宅の近くに身を潜ませて、

決定的瞬間を激写したいのだ。

 

とはいえ、うまい具合に

潜伏できるような施設は無い。

せめてカフェでもあれば良かったんだけど、

あるにはあっても駅前で、

自宅からはかなり離れる。

一番利便が良かったのは公園だった。

うう、寒い。

 

二人がいつ現れるか、

まったく見当がつかないので、仕方がない。

今日は日曜日、もしかすると

朝っぱらから自宅でいちゃいちゃ

しかねない可能性がある。

温かい缶コーヒーをすすったり、

カイロを抱きしめたり、

必死に寒さをしのぎつつ、

見張りを続ける私だった。

 

午後になって、ふらっと夫が出て来た。

またお得意のランニングかなと

思ったけど、服装が運動向けじゃない。

いつも通りのワイシャツにジーンズだ。

厚手のコートをきざっぽく方に引っ掛けている。

ははぁ、これはアレだな。

マミカと外で会う積りなんだな。

 

私はすくっと立ち上がり、尾行を始めた。

スーツケースに詰め込んでおいた、

普段あまり着ないダウンコート、

この日の為に買っておいた

安っすい伊達メガネに帽子という、

なかなか雑な変装をして。

 

夫は浮かれているのと、

私が出張に行ったと思い込んでいるのと、

たぶん両方の理由で、ほぼノーガードだ。

 

後ろからつけられてるなんて、

これっぽっちも感づいちゃいない。

しかし、さすがに走るのが

趣味なだけあって、ヤツは足が速い。

本人的には普通に歩いているのだろうけど、

こっちはかなりキツかった。小走り状態だ。

本人よりも周囲に、

変な目で見られたかもしれない。

 

思わず足を緩めたら、

あっというまにヤツを見失ってしまった!

しまった、私としたことが。

というか、素人に探偵の真似事は

やっぱり無理があったかな。

 

ここで諦めるわけにはいかない。

駅前方面に向かったのは確かなので、

頑張って追いつこうと再び小走りする。

一時間くらいだろうか。

ショッピングモールが怪しいと踏んで、

うろちょろしてたら、見つけた!

 

シュウ「今夜は何を食べようか」

 

マミカ「お出かけもいいけど、

シュウくんのおうちでのんびりしたいなぁ」

 

シュウ「じゃ、チキンとか

オードブルとか買って、家に帰ろうか」

 

きゃっきゃしながら、

夜の予定を話し合っている

不倫バカップルが、目の前にいる。

 

こうして自分の耳で「家に行く」なんて聞くと、

改めて、胸にぐっとくるものがあるなぁ。

あの部屋は、シュウだけの家じゃない。

私の生活スペースでもある。

縄張りを荒らされている気分だ。

 

そして、生涯のパートナーにと見込んだ相手が、

へらへらしながらその縄張り荒らしを

許している姿にも、怒りを禁じえない。

見失って一瞬とはいえ、

つい弱気になりかけたけど、

おかげさまで戦う意思が復活したわ。

絶対に尻尾を掴んでやる!

 

…後編へ続く

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