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本編

特に覚えているのは、

母が私を抱きしめてくれた時に、

ほんのりと香る母の香り…

香水だったのか、または母の元々の

匂いだったのか、それともそれらが

混じり合ったものだったのか、

とにかく私はその香りが大好きで、

いつも母の首元や服に顔を埋めては、

胸いっぱいに吸い込んだものだった。

 

その母の香りに包まれると、

全ての不安は消え去り、

幸福で満ち足りた気持ちになれた。

 

スカミ「おかあさん、だ〜いすき!」

 

あの幸せな感覚を、母の面影と共に、

私は今でも時々思い出す。

休日も仕事に行くことが多かった父の

分までカバーするように、

母は、週末や祝日になると、

様々な所へ私を連れて行ってくれた。

動物園、水族館、遊園地、映画館、

海、公園…大好きな母と2人で

あちこち行けることが、

ただただ嬉しかった私にとって、

父の不在は大した問題ではなく、

寂しさなどは、あまり感じて

いなかったように思う。

 

ところが、そんな母との

幸せな日々は、ある日突然、

何の前触れもなく途切れたのだった…

 

ある日、私が保育園で、

いつものように母のお迎えを待って

いると、何故か祖父母が迎えに来た。

先述の通り、母の代わりに祖父母が

迎えに来ることは時折あったものの、

そんな時には必ず、

朝のお見送りの際に、

 

母「おかあさん今日はご用が

あるから、お迎えには、おじいちゃん

とおばあちゃんが来てくれるからね」

 

と聞かされていたので、

突然祖父母が迎えに来たことで、

私は驚いてしまった。