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本編
恐怖、悲しみ、不安、苦しみ、恨み、
孤独、後悔……私の中で
ネガティブな気持ちが渦巻いた。
だが、落ち込んでいても、
癌は待ってはくれない。押し流される
ように前に進むしか無かった。
精神的にも肉体的にもギリギリの
状態で、闘病生活が
始まろうとしていた……
夫婦で暮らしていたマンションは、
ノブアキ名義だった事もあり、
ノブアキがそのまま
暮らす事になった。
私はすぐにでも出て行かなければ
ならなかったのだが、入院の日が
迫る中、両親や会社への報告、
入院に向けての検査や準備、様々な
手続きなどを済ませなければならず、
引っ越しの準備までは、
とても手が回らなかった。
ノブアキも、渋々という感じでは
あったものの理解してくれて、
荷物をまとめて運び出すのは退院後、
両親に手伝ってもらう事になり、
入院の日まで、私はそのまま
マンションで生活させて
もらっていた。
ノブアキは義実家に帰ったきりで、
ほとんど顔を合わせる事は無かった。
そしてついに手術の為に入院する日…
既に私たちの離婚は成立しており、
私とノブアキはもう夫婦ではなく、
他人になっていたのだが……
それにしても……
久しぶりに顔を合わせたノブアキは、
驚くほどに冷淡だった。
ノブアキ「退院後、荷物を取りに来る
時には、前もって連絡してくれよ。
もうここは君の家じゃないんだから、
勝手に来たりしないでくれ。
それ以外の連絡は、
一切してこなくていい。
手術が成功しようが、
失敗しようが、俺に報告する
必要は無いし、その後も、
たとえ余命宣告を受けようが、
癌が転移しようが、
俺が報告を聞く義理なんて、
もうこれっぽっちも無いんだ。
冷たいと思うかも知れないが、
それがお互いの為だ。
健常者と癌患者じゃ、
生きていく場所が違うんだから」
(あんまりだ……
これから癌と闘う人に向かって……
しかも、ついこの前まで
夫婦だった相手に、
面と向かってこんな言い方……
どう考えたって酷すぎる!!)
まるで過去の汚点のように、
私を自分の人生から排除しようとする
ノブアキの態度……
私は歯を食いしばり、
必死で涙を堪えながら、
何も言わずに玄関を出た。
(赤の他人だって、もうちょっと
優しい言葉をかけてくれるわよ!!)