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本編
何となくもやもやしながら、週末を迎えた。
平和的解決を期待していたのだが、
そううまくはいかなかった。
重機を稼働させるため、
駐車場の車はすべて午後5時半には
退去しなければならない。
俺も、いったんは自分の車を
敷地の外へ出した。
重機に、担当オペレーターたちが
乗り込んでいくのが遠めに見える。
スカオ「これから工事だからなぁ。
オペレーターさん達も大変だ。
さて、シャッター閉めるか」
俺は、車の出入り口に分厚い
シャッターを下ろした。危険防止のためだ。
そして、操作パネルに
反応しないようロックもかけた。
これが「閉める」作業だ。
残業などで、夜遅く
出入りする車もあるので、
そういうときはシャッターを
「下ろす」だけにする。
最後の社員が帰るとき、ロックをかけて
「閉める」という使い分けをしている。
重機は、分かりにくい場所に
専用の出入り口がある。
このシャッターを閉めても問題はない。
最終確認をして、俺は帰路についた。
……だが。
やっぱり気になる。
俺は、途中で車をUターンさせた。
もやもやしている理由が、
その時分かった気がしたのだ。
そうだ、俺がひっかかっていたのは、
半グレ男が
半グレ「せっかくここがまた
営業するって聞いたからよ」
と言った事だった。
あいつ、この物件が営業再開すると、
誰に聞いたんだ?
張り紙や立て看板を見たなら、
聞いたとは言わないはず。
どういう事なんだ。
考えすぎかもしれないが、気になる。
俺は、嫌な予感を抱えたまま、
会社に戻った。
正面のシャッターに異常はない。
だが、裏の重機専用出入り口は?
あちらは重機が大きすぎるので、
シャッターのサイズが合わず、
目立ちにくいように出入口を作っただけだ。
見つけられたら、簡単に入り込める。
そう簡単に分からないはずだとは
思ったが、ここで「聞いた」が
とても嫌な響きになって、
俺の中で引っかかった。
もし、社員の誰かが、
あの半グレと知り合いで、
話を聞いていたとしたら?
隠し出入り口を教えられていたら?
どきどきしながら裏に回ったら、
案の定、出入り口の扉が開いていた。
慌てて車を降りて、中に入ってみる。
やられた!
ずらっと30台のヤンキー系
スポーツカーが、
駐車スペースを占領していた。
俺は急いで社長に電話し、
状況を説明した。
話を聞いた社長は、少し考えたが
社長「いいよ、放っておけ」
意外な指示を出してきた。
スカオ「いいんですか?
でも、警察を呼ばなきゃ」
社長「呼んでも無駄だろう。
会社の敷地は、私有地扱いだ。
公道に違法駐車なら動いてくれるが、
私有地のトラブルでは、
警察はあてにならないよ。
まあいい。
俺に考えがある」
社長がそう言うなら。
俺は半信半疑ではあったが。
社長に任せる事にした。
週末を普通に過ごして、次の月曜日。
出社してみて、驚いた。
裏の出入り口に、なんと、
重機が突き刺さっている!
いや正確には、出入り口を
縦に塞ぐ形で、
巨大な重機が突っ込んでいる。
車どころか、
人も通れないくらい、ぎちぎちだ。
裏口から入れない半グレ、
ヤンキー集団が騒いでいた。
重機によじ登ろうとしているやつも
いたが、足を滑らせて落ちた。
半グレ「おい、重機どかせ!
これじゃ車を出せねえし、
俺達も入れねえじゃねえか!」
社長「わが社の敷地に、
わが社が所有する重機を
どう止めようが、我々の自由でしょう?
敷地の外には、車は
はみ出していませんから、
交通違反でも無いですね」
対応していたのは社長だ。
ぎゃあぎゃあ騒ぐ不法駐車の連中を、
冷静にあしらっている。
社長「だから止めるなと
言ったでしょう?
正面はシャッターを閉めて、
ロックかけてますから、
どうやっても出られませんよ」
半グレ「どうするつもりだ!」
社長「どうもこうも。
敷地利用料を払ってもらいます。
罰金を取るのは法律違反ですが、
敷地の利用料を設定して
請求するのは合法ですので」
半グレ「どこにそんな事
書いてあったんだ!」
社長「敷地内に。
そこの扉にも張り紙してありますよ」
社長が指さす壁には、確かに
「敷地利用料、車1台につき30分500円」
との張り紙があった。
俺が帰る時には無かったので、
たぶんこれも「俺に考えがある」
といった社長の作戦の一つだろう。
半グレ「知らねえよ、こんなの!」
社長「そちらが気づかなかったんでしょう?」
社長、すっとぼけて
すごい事言ってるな。
社長「およそ60時間のご利用ですので、
1台あたり6万円になります。
30台止まってますので、
しめて180万円ですか。
いやぁ、いい商売させてもらいました」
半グレ「この野郎!」
半グレが殴り掛かったが、
社長は悠々とかわしてスマホを取り出した。
社長「今の、全部録音してますよ?
防犯カメラもありますからね、
録画もばっちりです。
あとは警察でお話ししましょうか」
半グレ「卑怯だぞ!」
社長「防犯カメラなんて、
今どきの常識でしょう?
逆に聞きたいのですが、
なんでカメラが無いと思ったのですか?」
社長にいいようにあしらわれているうちに、
今度こそ本物のパトカーが来た。
社長の事だ、先に手を回していたに違いない。
出来る男はいろいろ違うなぁ。
結局、半グレ達は
警察署までお持ち帰りになった。
無断駐車の車を完全に退去させるのに、
まる一日かかったが、
これでやつらは懲りただろう。
そして、情報を流していた半グレと
知り合いの社員も見つかり、
減給処分が下った。
社長は不法侵入した無断駐車の連中に、
厳罰を要求し、特に悪質と認定された
半グレ男は、懲役1年執行猶予3年という、
なかなか厳しい刑罰に処された。
スカオ「あの連中を、
民事でも訴えたんですよね?」
社長「ああ、うちの勝ちだ。
業務妨害が認められて、
損害賠償100万の請求が通ったよ。
二度と、無断駐車をする気に
ならないよう、しっかり〆てやった」
社長はさわやかに笑った。
二代目は、ほんとに頼りになるなぁ。
これからもついていきますよ、社長!
終