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本編
さらに詳しく話を聞くと、
ミミの実家はそこそこ資産家で、
一人娘だという。
小学校時代は、女の子ながらに
いわゆるガキ大将タイプで、
よく駅前の駄菓子屋に
入り浸っていたそうだ。
小遣いは十分すぎるほど貰っていたらしく、
男の子達に気前よく
駄菓子を買ってあげていたとか。
住民「あのころから、
あんまり変わっていないわね。
気に入った子には、
たっぷりお菓子やおもちゃをあげて、
自分のいう事を聞かせようとしていたわ。
今も、食事がどうとか言ってたでしょ?
あれで、ご主人を口説いている
つもりなんだと思うわ」
スカ美「そんな。
小学生じゃないんだから」
思わずあきれた。
なるほど。
話の通りなら、ミミはどこかで
見かけたうちの夫に一目ぼれでもして、
さかんに食事に誘い、アタックチャンスを
狙っているという流れなのだろう。
ヤスキは、ミミのようなタイプは
好みじゃないはず。
どんなに粘られても、乗ったりはしない。
そこは安心できる。
ただ、間違いなくうっとうしい。
スカ美「やっぱり警備会社を探さなきゃ」
ついでにボディガードも必要かしら?
面倒くささを感じて、私は頭を抱えた。
夜になって、ヤスキが帰ってきた。
やっと思い出したという様子で
ヤスキ「確か、一か月前だったなぁ。
あの女性、駅の中で見かけたよ」
スカ美「そうだったの?」
ヤスキ「うん、階段を昇っていたら、
急に女性用のサンダルが
転がり落ちてきたんだ。
拾って上を見上げたら、
おろおろしている、
片足が裸足の女性がいてね。
ああ脱げちゃったのかと分かって、
届けてあげた」
スカ美「それが、あのミミさん?」
ヤスキ「いや、名前までは知らないよ。
ミミさんっていうのか?
ありがとうございましたって言われて、
それで終わったと思ってた。
その後、仕事終わりに、
時々女性から声をかけられた事は
あったんだけど。
顔をよく見てなくて。
興味なかったし、ずっとスルーしてた。
彼女だったのか」
スカ美「理由が良く分からないね、怖いわ」
ヤスキ「うん。今までは無視して、
速足で振り切ってたんだ。
それで問題なかった。
今朝くらいしつこくされたのは初めてだよ。
何であんなに食事にこだわるのか、
よく分からない」
もしかして彼女、この1ヶ月間、
ずっと夫を付け回していたのだろうか。
だとしたら、思い切りストーカー気質だわ。
スカ美「ヤスキは引き続き、
彼女が何を言ってきても無視して。
私、明日までには必ず
警備保障会社を見つけるわ」
ヤスキ「そうしてくれ。俺も怖い」
この日の二日後に、ちょうどいい感じの
警備会社を見つけて、すぐ契約した。
センサーや監視カメラもとりつけてもらい、
とりあえずはほっと一息。
その日の午後、古くからの友人が遊びに来た。
チカ「久しぶりー。
リク君も元気だったかな?」
スカ美「久しぶりだね、チカ。
リクは相変わらず、元気いっぱいよ」
リビングでくつろぎ、
昔話や共通の話題に花を咲かせた。
夏の暑い盛り、でもリクの体調管理のため、
なるべくエアコンは使わないようにしている。
代わりに窓を開けていた。
車通りや自転車のベルなど、
外の音が聞こえる。
チカ「そういえば、
リク君もお年頃だよね?」
スカ美「そうね、24歳なんだもんねえ」
チカ「好青年に育ったわねぇ。
そろそろお見合いとか、考えてる?」
スカ美「そうねー。
親ばか発言でごめんなんだけど、
リクはイケメン男子だから。
お似合いの可愛い奥さんを
お迎えしたいとは思ってるよ」
チカ「じつは、花婿募集中の
女の子がいるのよ。
今日は写真を見せに来たの。
ほら、この子」
スカ美「あら、可愛い!
リクにぴったり、
ナイスカップルになりそう。
リクも見る?お嫁さん候補だよ」
そんな話で盛り上がり、
夕方まで楽しく談笑した。
チカを送り出し、さあ夕食を、
と思った時だ。
いきなりインターフォンがなった。
ん?チカが忘れ物でも取りに来たのだろうか。
来客が帰った直後という事もあって、
私は気軽に応対に出た。
玄関に入ってきたのは、
しかし昔馴染みの友人ではなかった。
なぜか、男性の警察官が1名。
そしてその後ろには、
さらに見知らぬ女性の姿があった。
スカ美「え?警察の方?
そちらの女性の方はどなたですか?」
警官「少しお話をお伺いしたいのですが、
よろしいでしょうか」
警察手帳を見せながら、
警官は話し出した。
何だか分からなかったけど、
聞かなきゃ何も始まらない。
私は恐る恐るうなずいた。
警官「こちらの女性ミミさんから、
ご相談を受けまして。
何でも、お宅様の息子さんに騙された、
結婚詐欺の疑いがあるとか」
スカ美「はぁ!?」
意表をつかれすぎて、思わず大声を出した。
たぶん、声はひっくり返っていただろう。
という事は、この若い女性がミミなんだ。
言われてみれば、すっきりした
ボディラインをしている。
あの時の後姿にそっくりだった。
目を見開いて、警官をまじまじと。
次にミミもじろじろと。見てしまった。