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【ブログ限定】少女「100円で買えるお誕生日ケーキありますか」【前編】

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【ブログ限定】少女「100円で買えるお誕生日ケーキありますか」【中編】
前編はこちら▼ 後編はこちら▼ 本編 スカ太郎「100円ですか」 少女の堅い決意に応じてあげたい 気持ちはやまやまだが。 100円で買えるものはない。 ご希望のホールケーキはおろか、 一番安いシュークリームでも難しか...

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【ブログ限定】少女「100円で買えるお誕生日ケーキありますか」【後編】
前編はこちら▼ 中編はこちら▼ 本編 祖父の言葉は、すぐに現実化した。 店の周りを、スイーツを買うとは 到底思えない、ごつい面構えの男たちが うろつくようになった。 看板を蹴り飛ばされたり、 わざとらしく店をのぞき込んで...

本編

合縁奇縁という言葉がある。

世にも不思議な巡りあわせという意味だが、

俺の経験はその言葉通りだろう。

俺はスカ太郎。今年38歳の、

立派なおっさんだ。

職業はパティシエといえば

聞こえはいいが、

どちらかというと

町のケーキ屋さんって感じかな。

 

事の発端は、

今から15年ほど前にさかのぼる。

俺が働く店の主は祖父だ。

実父のせいで祖父母に預けられて

育った俺は、両親の顔を知らない。

母は、俺が生まれてまもなく

他界してしまった。

優しい良い人だったと、

祖父は語っている。

 

問題は父親だ。

祖父にとっては息子なのだが、

これがまたどうにもこうにも。

ケーキ職人を嫌がり、好き勝手に遊んで、

母とデキ婚したという。

そのくせ、母を放ったらかし

だったそうだ。

 

祖父「我が子ながら、

どうにもならん男だ。

身重の妻をうちに預けっぱなしにして、

遊び歩いていた。

今はどこでどうしているやら」

 

祖父が言いたかったのは、

父親には似るなという事だろう。

俺としても、顔も知らなきゃ良い話を

一つも聞かない父親には、

何も期待していなかった。

頑固者で、見るからに職人気質な

祖父をこそ、親父と慕っていた。

 

祖父「なんだって?

おまえ、この店を継ぎたいのか」

 

跡継ぎのなりそこないな父親を、

祖父もとっくに見限っていたらしく、

自分一代で店は終わりだと

思っていたらしい。

それがまさかの

 

スカ太郎「俺もケーキ職人になる。

俺にとっちゃ、じいちゃんが作る

ケーキは家庭の味そのものだから」

 

孫の立候補だ。

あの時ばかりは、普段いかつい顔をして

スポンジを焼き、生クリームを

混ぜてばかりの祖父が、にこやかだった。

俺はもちろん本気だった。

閉店後に、売れ残った商品を

持って帰ってくる祖父から、

いつも夕食後のデザートとして

ケーキをもらっていた。

イチオシは、何といっても

王道のイチゴショートケーキだ。

 

祖父は戦前産まれで、

少年期に戦争を経験した世代だった。

物資が極端に無く、特に甘いものなんか

滅多に口にできない厳しい時代を

過ごした経験があって、

ケーキに賭ける情熱はすごかった。

こだわり抜いたイチゴショートケーキは

店の看板、商売を始めた頃から、

材料も手順も一切変えない

徹底ぶりを貫いている。

俺は、そのケーキが大好きだった。

 

祖父「職人の道は厳しいぞ?

ちゃらちゃらした気分で

取り組まれるのは困る。

覚悟はいいか?」

 

にこやかだった表情を、

急に引き締めて、祖父は俺に宣言した。

昔ながらの徒弟教育をやるという。

望むところだった。

 

高校を卒業したその日から、

祖父と俺は、師匠と弟子になった。

宣言通り、祖父は厳しかった。

 

祖父「焼きすぎだ、バカ野郎!」

「今度は生焼けか!程度が分からんのか!」

 

ケーキの土台であるスポンジを焼く、

初歩の初歩から、祖父は絶えず

怒号を飛ばしていたものだ。

正直なところ、

俺は考えが甘かったと思う。

スポンジ台なんて誰でも焼ける、

オーブン使えば楽勝、

そんな感じだっただろう。

だが実際は、細かな気配りが

必要な作業だった。

 

実を言うと、祖父の店で

使っているオーブンは年季もの。

なんと、薪が燃料という代物だった。

祖父に言わせると

 

祖父「電気オーブンは使わん。

あれじゃ、うちならではの味が出ない。

おまえにも、少なくとも基本を

たたきこむまでは、電気オーブンは許さん」

 

スカ太郎「電気の方が、

使い勝手がいいし、効率も良いのに?」

 

祖父「効率が大事だったら、

うちの店を継ぐなんて言うな。

そんなのは、たくさん作って

ナンボの企業に任せておけ。

手作りが命の店には必要ない」

 

だった。

もう一つ言うと、祖父は戦前の生活から

電気は信用ならんという

考えの持ち主でもあった。

祖母が笑いながら教えてくれた。

 

祖母「昔はねえ、電気は

すぐ止まるものだったのよ。

停電が当たり前だった

時代の人だから、

いまだに信用できないんですって」

 

言われてみれば、

うちでは炊飯器を使っていなかった。

 

祖父「仕方がない、ガスは認める。

ただし、ガス調理器はだめだぞ」

 

祖父は頑固に言い張り、

祖母は土鍋を使っていた。

ガス炊飯器を調理器と

表現するところに、時代の違いを感じた。

 

そんな頑固一徹の祖父に鍛えられ、

23歳になったときの事だ。

ある日の閉店間際に、

小さい女の子が一人で来店してきた。

 

ミヤコ「あのう、ケーキください」

 

スカ太郎「ケーキですね。

何がいいですか?」

 

どう見ても、小学校低学年だ。

接客態度についても、祖父の教えで

「誰であれ、商品の前に立てばお客様」

を徹底されていた俺は、

にっこり笑顔で希望商品を聞いた。

しかし内心では

 

スカ太郎(この子に買えるのか?)

 

疑問だった。

それというのも、その子の身なりが、

あまりにも「あれ」だったからだ。

ぼろぼろの恰好をしていた。

 

服はあちこちが擦り切れていて、

女の子の体形にあっていない。

ぶかぶかすぎる。

たぶん誰か、もっと年上の子の

おさがりだろう。

 

白いはずのブラウスが薄いグレーに

変色していて、襟元も黄ばんでいた。

ボタンが取れかかり、履いている

スカートに至っては、

あきらかに繕った跡がある。

ウェストも、女の子には大きすぎるのか、

ひもで縛って調整しているありさまだ。

 

本人も、手をかけられていないのが

はっきり見て取れた。

長い髪はぼさぼさで、

伸ばしっぱなしという状態だ。

前髪も切り揃えられていない、

目が見え隠れしていた。

 

それでも、商品の前に

立っているからにはお客様として扱う。

店のルールであり、祖父の信条だ。

俺は、ケーキを買えるだけの

手持ちがなさそうに見える女の子にも

 

スカ太郎「ご希望は?」

 

商品の指定を促した。

女の子はもじもじして、

しばらく何も言わなかったが、

やがて迷いを振り切ったような、

決意にみなぎった表情をして

 

ミヤコ「お誕生日のケーキが

欲しいんです。

100円で買える

お誕生日ケーキはありますか?」

 

そっと手を出してきた。

なけなしだろう100円硬貨があった。