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本編

格安の引っ越し業者を呼んで、

叔父夫妻にあいさつし、

ほぼ飛び出すように叔父宅を立ち退いた。

 

祖父母が住む街は、電車の駅を中心に、

東と西のエリアが開発されている。

東側は商店街から住宅街へ続き、

西側はビジネス街だ。

その関係なのか、駅前には

時間貸しの駐車場が多い。

 

祖父の家は東側の住宅街にあって、

祖母が暮らしやすいように

気を遣ったらしく、高機能マンションだった。

いわゆる介護サービス付きの集合住宅で、

居住者は70歳以上で

要介護という制限がある。

若い私は、祖父母とは同居できない。

祖父は、駅に近い割とおしゃれな

マンションを用意してくれた。

 

祖父「よく来た。

ツヨシの事はもう気にするな。

スカミはスカミの幸せを考えればいい」

 

祖父とはそんなに会う機会は

無かったけれど、

孫娘をかわいいと

思ってくれているのは

よく伝わってきた。

祖父に会うには、高機能マンションの

ロビーを訪れる必要がある。

なんだかホテルのような作りで、

外がよく見える。

窓際のソファに腰掛けると、

係の女性がお茶を運んできてくれた。

 

スカミ「おじいちゃん、

いいところに住めてるんだね。

安心したよ」

 

祖父「こう見えて、

まだ土地はあるからな。

いろんな人に貸してるんで、

何とかばあさんと二人、

こういう世話人がいるマンションに

住めている。そこでだ」

 

祖父は、何やら書類を広げ始めた。

月ぎめ駐車場と書いてある。

 

祖父「スカミは仕事を辞めて

こっちに来たんだろう?

駅前の駐車場は、時間貸しばかりで、

月極はあまりない。

うちは、この辺じゃ珍しい

駐車場を経営しているんだ。

わしも年だし、そろそろ管理人を引退したい」

 

スカミ「私が代わりに?」

 

祖父「ああ。

手始めに、規模が小さい

月極駐車場を任せたい。

4台駐車できて、満車だ。

借り主は全部が法人で、

来客用という事で貸している」

 

スカミ「管理人ね」

 

祖父に渡されたのはマニュアルだった。

清掃や設備の点検、来客対応、

集金などなど。OLからの転職として、

難しい職種ではなかった。

仕事が見つかれば辞めてもいいし、

副業にしてもいいと、祖父は言ってくれた。

 

スカミ「わかったよ、おじいちゃん。

ありがとうね。

さっそく、働かせてもらうわ」

 

祖父「ゆくゆくは、他の大きな

駐車場も任せたいと思っている。

まずはやってごらん」

 

問題の駐車場は、駅前というか、

私が住むことになったマンションの

玄関前にあった。

エントランスをはさんで

4台が止まれるようになっている。

近くの喫茶店、美容室がそれぞれ1台ずつ、

駅の西側にあるオフィスが2台分。

こじんまりしている。

今の時点で、空きスペースは1台、

他は駐車されている。

みんなマナーよく止めていて、

管理はやりやすそうだ。

 

そう思ってほっとしていたら、

背後でクラクションがなった。

どこかで聞いた事がある音だ。

びっくりして振り向くと、なんと兄がいた。

助手席に若い女性を乗せている。

 

スカミ「お、お兄ちゃん⁉」

 

ツヨシ「へー、ここか。おまえんち」

 

ばれた⁉何で⁉

いくら何でも、兄に知られるのが早すぎる。

がく然としていたら、

兄の横に座っていた女性が笑い出した。

 

ミリア「やだー、私ったら、

忘れられちゃってるぅ」

 

スカミ「え?」

 

この声は⁉

もしかして、引っ越し業者の

受付を担当した、電話でやりとりした女性⁉

確か、電話口でミリアと

名乗っていた気がする。

恐る恐る聞いてみると

 

ミリア「思い出してくれた?」

 

スカミ「兄の知人だったんですか!?」

 

ミリア「っていうか、彼氏。

もうすぐ旦那だよー」

 

完全に想定外だった。

よりにもよって、

引っ越し業者の受付が、兄と通じていた。

それどころか、結婚する予定だという。

そりゃ兄に筒抜けになるのも無理はない。

 

ツヨシ「いいとこに引っ越したんじゃん。

しかも駐車場付きか。

ここら辺は時間貸ししかなくてよぉ」

 

スカミ「ちょ、ちょっと待って!」

 

契約者の来客スペースに、

無理やり車を入れようと

しているのが分かった。

こんなところで傍若無人を

されてはたまらない。

慌てて拒否したが、兄はお構いなし。

平気で私の腕を吊り上げ、

痛がっても止めなかった兄の事だ。

自分の思い通りにするためなら、

私が立ちふさがっても、

平然と車を乗り上げてくる気がする。

 

結局は、強引に車を止められた。

駅前でスロット打ってくるといい、

兄達は私を無視して歩いて行ってしまった。

ああ、なんて事だろう。

 

その後も、兄は車を止めに来た。

ここは私の駐車場ではなく、

用途も来客向けと決まっている。

いつどくか分からない、

客でもない相手には貸せないと、

追いかけて叫んだけれど、

うるせぇで済まされた。

もちろん、契約者からすれば、

兄のためにお金を払って駐車スペースを

確保しているわけじゃない。

肝心な時に車を止められないと、

何度もクレームが入った。

 

契約者(40代男性)「困るよ。

お客様にご案内したら、

止められないってお叱りを受けたんだ」

 

契約者(50代女性)「誰が止めてるのか

分からない?何とか対処して」

 

申し訳ありませんと頭を下げる日々が続いた。

そうこうしているうちに、

また兄が来た。今度は旅行の用意をしてきた。

 

ツヨシ「よう。

俺、結婚したんだわ」

 

スカミ「……おめでとう」

 

ミリア「おめでとうだけ?

ご祝儀くらい出すのが普通でしょ?

それから、しばらく日本を離れるんだよね。

お餞別ってやつ?それも頂戴」

 

スカミ「日本を離れる!?」

 

ぞっとした。

どこにそんなお金が、

と聞きかけてやめた。

叔父から、保険金の入った通帳を

出させたに違いないのだから。

そんな事より、車をどうするつもりなのか。

それを聞く方が大事だった。

 

スカミ「ちょっと待って。

ここに止めないで。私の駐車場じゃないの。

借りてる人は他にいるんだから」

 

ツヨシ「俺には関係ねえよ」

 

わざとらしくアクセルをふかしながら、

兄は言った。

また強引に止めるつもりのようだ。

 

スカミ「ダメだったら!困るの!」

 

ツヨシ「ひくぞ?」

 

兄の目は本気だった。

 

…後編へ続く

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【限定ストーリー】兄夫婦が1年間無断駐車をした結果…#後編
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