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本編

私はスカミ。22歳の独身OLだ。

両親は早くに他界し、今の肉親といえば、

面倒を見てくれた叔父さんと、

3歳年上の兄だ。

この兄ツヨシは、

本当に私と相性が合わない。

高校進学がきっかけだったと思う。

 

叔父さん夫妻にひきとられたとき、

間取りの都合で、

兄は全寮制の高校へ進学した。

卒業した時には、

金髪で耳にはピアス、腕にタトゥー。

服装も、スーツ姿の卒業生達に混じって、

VネックのロングTシャツ、

ダメージパンツといった、

フォーマルからほど遠い恰好だったそうだ。

 

叔父「ツヨシの独立は早すぎたな。

悪い友達ができて、

染まってしまったようだ」

 

親代わりの叔父さんは、

困り顔をしていた。

兄は体格が良く、背も高いので、

見るからに迫力がある。

叔父さんはごく平均、

兄とは10cm以上の身長差だ。

残念だけど、叔父さんを

甘く見ている様子がうかがえる。

 

私は女性だから、

叔父さんよりも甘く見られている。

確信を持って言える。

兄はやりたい放題だった。

 

卒業祝いと称して、

父の形見の腕時計を売り払った。

ブランド物でしかも限定品、

中古でもなかなかの値段が付くと知った瞬間、

あっさり売却してしまい、私にも

 

ツヨシ「母さんの時計よこせよ」

 

と言ってきた。

両親が、結婚指輪の代わりに奮発した

ペアウォッチだった。

母の持ち物だった時計は私に譲られていた。

それを渡せと、迫ってきたのだ。

 

スカミ「お母さんの形見だよ?

お兄ちゃんには、お父さんの時計が

形見分けされたはずだよね?」

 

ツヨシ「うるせぇな。

ペアなんだから、お袋のやつも

揃えなきゃ値打ちが下がるんだよ」

 

スカミ「値打ちって。

まさか、売るつもり?」

 

ツヨシ「俺のものをどうしようが、

俺の自由だろが」

 

スカミ「なら、あの時計は

私のものなんだから」

 

私の抗議は最後まで

言わせてもらえなかった。

兄は、私の手首をつかんだ。

それだけでも痛かったが、

さらにひねって、

私を引きずり上げたのだ。

手首も肩も、抜けそうになった。

痛いというか、熱い感覚だったのを、

10年たった今でも覚えている。

 

スカミ「痛いっ!

やめて、お兄ちゃんっ。

肩が抜けちゃう!」

 

ツヨシ「誰に向かって、

生意気な口きいてるんだ?

分からねぇなら、

分かるまで吊り上げてやるよ」

 

スカミ「やめて、やめてーっ!」

 

兄の目は血走っていて、

目つき自体も普通の

人間のものとは思えなかった。

本気で、私が母の形見を差し出すまで、

腕一本で持ち上げるつもり

なのだと気づいた。

私は160cmそこそこ、

兄とは30cmも差がある。

本当に脱臼しそうになって、

抵抗を諦めた。

 

ペアで、保証書もあって、

保管状態が良い。

兄を喜ばせる売値に

なったのだろう。

 

ツヨシ「俺に勝てるわけ

ねえんだからよ、素直にいう事きけや。

ばかじゃねえのか、

わざわざ痛い思いして」

 

兄はせせら笑うと、私を放り出して、

叔父宅を出て行ったのだった。

ちょうど叔父夫妻は買い物でいなかった。

悔しかったが、叔父に言っても、

あの乱暴な兄を制止できるとは

失礼ながら思えなくて、泣き寝入りした。

 

それ以来、何かあれば、

叔父の留守を確認してやってくる。

父が残した品物は、

ほぼ売りつくしてしまったのだろう。

後は、私が譲られた品と保険金だ。

 

叔父「スカミ。

この際だから、独立したらどうだ?」

 

兄が、何かといえば叔父宅に来て、

私の私物を持ち出す事が増えていた。

心配した叔父が、

家を出るように提案してきたのだ。

 

叔父「ツヨシは、どこで道を

間違えたのか分からんが、

あれが立ち直るのには

時間がかかるだろう。

のんびり待っている余裕はない」

 

スカミ「もしかして、

また兄さんが何か言ってきたの?」

 

叔父「ああ。

保険金の話をな」

 

やっぱり。

両親が他界した原因は事故で、

保険金はある。

でも、それに手を付けるのは心配だし、

叔父も賛成しないだろう。

 

両親の代わりに面倒を見てくれた叔父は、

私達の後見人という立場だ。

今は兄妹とも成人しているので、

財産などを叔父に管理してもらう

必要はなくなっている。

恐らく兄は、私達に残された保険金を、

自分で管理させろと言ってきたのだろう。

 

叔父「ツヨシとスカミで

半分ずつ分けることになっている。

兄貴の遺言だから、

その通りにしてあるし、

通帳はいつでも引き渡せる。

ただ、スカミは問題ないが、

ツヨシに渡すのはなぁ」

 

スカミ「私もそう思う」

 

叔父「ツヨシは、自分が兄だから、

妹の分も管理すると言い張っているんだ。

スカミの分は渡せない」

 

叔父夫妻には子供がいない。

兄と私を、実の子同然に

かわいがってくれている。

もっとも肝心の兄は、

叔父の期待を裏切ってばっかりで、

最近は見放され気味だ。

叔父も、せめて私の事は

きちんとしてやりたいと思っていると、

以前にも聞いた事がある。

その心境は変わっていないのだろう。

 

叔父「実は、前から

考えていた事があるんだ」

 

スカミ「兄さんから逃げる方法?」

 

叔父「まあ、そんなところだな」

 

叔父の説明によれば、

隣の市に父方祖父が

土地を持っているそうだ。

そちらを頼ったらどうかという。

 

スカミ「おじいちゃんかぁ。

あんまり会った事がないから、

どうなんだろう?」

 

叔父「じいさんも、

スカミを気にしている。

ばあさんが元気なら、

引き取って育てたかったと言ってたぞ」

 

祖母は病気がちで、

若いころからしょっちゅう病院に通い、

入院もしばしばだ。

その事があって、私たちの

引き取りを断念したと叔父に聞いた。

成人した今ならむしろ、

何か役に立てるかもしれないと、

私は思った。

 

叔父「スカミさえよければ、

じいさんに聞いてみるがどうする?」

 

スカミ「うん!お願い」

 

くれぐれも、兄には内緒に。

私は祖父母を頼って、

隣の市へ引っ越すことを決めた。

職場は兄に知られているので、

転職も考えた方がいいだろう。

 

叔父はすぐに話をしてくれたようで、

祖父も歓迎すると

言ってくれたとの事だった。

少しだけど貯金もある。

仕事を辞めても、

今すぐ困ったりはしない。

善は急げとばかりに、

私は身の回りの物をまとめた。

 

…中編へ続く

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