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本編
玄関扉を閉めた途端、
堰を切ったように涙が溢れた。
私は嗚咽を嚙み殺しながら、
涙でぐしゃぐしゃのま
まエレベーターに乗り、
逃げるようにマンションを出ると、
そのままタクシーを拾って
病院に向かった。
(どうして……最後の最後に、あんな
事を言われなきゃならないの…??)
もしかして、癌以外にも、
何か原因が有るのだろうか…?
あれほど嫌われるような落ち度を、
私は気づかぬままにして
しまっていたんだろうか…?
完璧な妻だったとは言わないが、
癌を告げるまで、夫婦関係は
良好だったはずなのに……
私は泣きながら、
グルグルと考え続けた。
どうしてあんなに酷い態度を
取られなければならないのか、
理解が出来なかったからだ。
しかし、考えても考えても、
理由は思い当たらなかった。
ところが……
この、ノブアキの豹変に、
実は思いもよらない理由が隠れていた
事を、後に私は知る事になるのだ……
私は傷付き、混乱した状態のまま
病院に到着した。
涙を拭いて事務的に入院手続きを
済ませ、個室に案内されると、
1人の部屋でまた泣いた。
病室にやって来た担当医や看護師さん
達は、私が泣いていた事に気付くと、
「不安ですよね〜」と気遣ってくれ、
「大丈夫です、頑張りましょう!」
と励ましてくれた。
きっと、病気の事で不安で
泣いていると思ったのだろう。
私は温かな思いやりが有り難くて、
ただ大きく頷きながら、
涙をこらえたのだった…
明日はもう手術……術前の検査や、
手術に関する説明を淡々と
受けるものの、(癌に打ち勝って、
また元気に生きていこう!)という
気持ちには、全くなれなかった。
ただ辛くて、悲しくて、
ただもう消えてしまいたかった。
(私…どうして手術を受けてまで
生きようとしているんだろう…
頑張って手術を受けたって、
もうノブアキは側に居ないのに……
生きる意味なんてあるのかな……)
どんどんネガティブな気持ちになって
いき、生きているのが嫌になった。
(このまま、あっという間に癌が増殖
して、私を●なせてくれないかな…
いっそあの窓から飛び降りたら、
楽に●ねるんじゃないだろうか……)