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本編
今、俺が住んでいる家は、
元々は祖父母が住んでいた一軒家で、
明治初期に建てられた、
もはや古民家と言ってもいいような、
大きな平屋の木造建築だ。
持ち家ではなく、先々代からずっと
お借りしている借家なのだが、
貸主である大家さんとは、
長年家族ぐるみの良好な
お付き合いをさせてもらっている。
両親が共働きだった俺は、
子供の頃からしょっちゅうこの家に
遊びに来ていて、祖父母にも、
ご近所に住む大家さんにも、
可愛がってもらっていた。
数年前に祖父が亡くなってしまい、
この家の住人がとうとう誰も
いなくなってしまった時、
大家さんの息子さんからは
解体の話も出たそうなのだが、
この家に思い入れがあり、
どうしても残して欲しかった俺は、
居ても立っても居られず、
大家さんにお願いして、続けて
住まわせてもらえる事になった。
俺と同じく、この家が好きで本当は
解体したくなかった大家さんは、
俺の申し出に大喜びしてくれて、
長年のお付き合いの信頼関係も
あって、破格の値段で
貸してくれているのだ。
長く住む中で、大家さんとも
相談しながら何度もリフォームを
しているものの、古き良き時代の
風情が色濃く残る家の造りも、
手入れの行き届いた広い庭も、
祖父母や両親、親戚や従兄弟達との
思い出が詰まった、
大好きな空間だった。
俺1人で住むには広すぎる家だが、
大家さんが許してくれる限り、
大切に守って暮らしていきたい…
そう思って暮らし始めたのだが、
引っ越してきたのも束の間、
突然仕事が激務になり、家に
帰れなくなってしまったのだった…
ある日の午前中、また仕事の合間に
上司の許可をもらって会社を抜け、
車で家に向かっていると、
家の近くの信号の所で、
自転車に乗った大家さんを見かけた。
俺の車に気付いた大家さんは、
大きく手を振って車の横まで来ると、
にぎやかに声をかけてきた。
大家さん「あら!こんな時間に
どうしたの?忘れ物?」
スカオ「いや…じつは今、
ちょっと仕事が忙しくて…ずっと
会社に泊まり込んでるんです…」