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本編
嫁は俺の姿を見た途端、露骨に顔を
歪ませた。そして娘と顔を見合わせ、
何やらコソコソと話し出した。
せっかくの良い気分をくじかれた
俺は、疲労もあって、もう我慢も
限界だった。
俺「何なんだよ、一体!!言いたい
事が有るなら言ってくれよ!!!」
俺は思わず大きな声を出して
しまった。嫁と娘は小馬鹿に
したように薄ら笑いを浮かべていた。
嫁「汚い作業着なんて着ちゃって、
みっともないのよ!!
もう出て行ってよ!この不潔男!!」
嫁は、心の底から軽蔑する、という
感じで、汚いものでも見るような目で
俺を見てきた。
俺「何でそんな事を言うんだ?
これは俺の仕事着だ!!俺は今まで
この作業着を着て、お前たち家族の為
に、一生懸命働いてきたんだ!!」
決して言ってはいけない
「誰のおかげで飯が食えると
思っているんだ」という言葉を
必死で押さえ込みながら、俺は目を
つぶって一度大きく深呼吸をした後、
嫁と娘の方へ歩き出そうとした。
すると、嫁は対抗するように
2、3歩前に出て叫んだ。
嫁「何でって?分からないの?
じゃあ教えてあげるわよ!!」
まるでせきを切ったように、
今まで言ってこなかった不満を
ぶちまけ出した。
嫁「ママ友の旦那はみんなもっと
ステキなのよ!!
仕事もホワイトカラーで、
スーツとかビジネスカジュアルとか
着こなしていて、
すっごくカッコいいの!!
いっぽうあんたは汚い作業着で、
みっともないったらありゃしない!
ママ友に見られてしまうと
思うと、恥ずかしくて仕方ないわ!!
あんたを旦那として紹介するくらい
なら、シングルマザーの方が
よっぽどマシよ!!」
俺は目の前の光景が信じられ
なかった。嫁の声が、水中で聞く音の
ような、または金属音のような、
どこか違う場所から響いてくる
音のように聞こえていた。
追い討ちをかけるように、娘までもが
嫁を援護するように叫び出した。
娘「そうだよ!!パパなんて、
いるだけで恥ずかしい!!ママは
美人なのに!!パパは邪魔なだけ!!
ママだけいてくれたらいい!!
パパなんていらない!!
もう出て行ってよ!!!」
娘の言葉で、俺の中の何かが
完全に壊れた気がした。