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本編
俺はスカオ。30歳独身の会社員だ。
大学を卒業してすぐに入社した、
このあたりではまあまあ大手に入る
建設会社に勤めている。
今は、仕事とはちょっと違う意味で忙しい。
うちの会社は先代社長の時代には、
駅前のビルにテナントとして入居していた。
何せ駅前、余分な土地が無い。
何とかビルの地下駐車場を借りてはいたが、
来客用2台に役員用3第が限界だった。
先代のころは、それでも足りてはいた。
しかし、先代が引退して相談役に、
長男の専務が二代目社長になった
あたりから、業績が伸び始めた。
うちの二代目、なかなかの敏腕だ。
取引相手も増えて、
来客が頻繁になってきた。
人数も多い。
繁盛し始めた代わりに、
駐車場問題が浮上してきた。
スカオ「これ以上は
駐車場借りられませんね」
社長に言われて、総務部の俺は
ビルオーナーに何度も掛け合った。
でも、いつも答えはノー。
オーナー「テナント入居している
オフィスの皆さん、
同じことを仰るんですよ。
一台でも多く、駐車場を
借りられないかって。
お気持ちは分かりますが、
面積は限られていますから」
スカオ「空きが出たら、
教えていただけます?」
オーナー「空きを待っているのは、
すでに5社ありますがね?
6番目でいいなら」
こんな調子だった。
これじゃ、事実上は貸せないと
断られているも同然だ。
そこで社長に報告したら
社長「そうか。
もうこのビルも厳しいなぁ。
社員も増えたし、
この際は移転を考えるか」
大胆な発言が飛び出した。
社長「スカオ、都心から
外れたところに、物件探してくれ。
駐車場が広くとれそうな土地がいい」
スカオ「自社ビルを建てるんですか?」
社長「もうそろそろ、借りるより
自分で持った方がいいだろうと思っていた。
今までは駅前の利便性が良かったがな。
これからは、もっと広いオフィスで、
車の置き場にも困らないようにする」
スカオ「じゃあ、社員も
車通勤できるようになりますか?」
社長「お前次第だな。
がんばっていい物件探してくれ。
駐車場さえ確保できれば、
自家用車も社用車も
しっかり止められるぞ」
社長にそう言われて、俺はやる気満々。
今までは駅前ビルだったので、
車通勤はできなかったというか、
その必要が無かった。
社長の言う通り、
今のオフィスは利便性が抜群にいい。
銀行、取引先、うちの会社が関わる役所、
ほとんどが駅前に集中している。
ただこの1~2年で、
うちはぐっと業績が伸びたし、
新入社員も積極採用の方針になった。
オフィスが狭すぎる問題と、
訪問客が車を止められない問題が
出てきたのだ。
自社ビル確保は、最初のコストが高いが、
その後は安くあげられるという事で、
社長がずっと計画していたらしい。
さっそく不動産屋を駆け回り、
あれこれと交渉した結果、
社長にOKを貰える物件と出会った。
駅から10キロ離れ、住宅街に近い場所に、
物流センターの跡地があったのだ。
跡地と言っても、
建物はまだまだ現役。
そして何より、希望の駐車場が
めちゃめちゃ広い。
これなら、うちの職種として
必要不可欠な重機もおけるし、
社員全員に車通勤を許可しても、
まだ余裕がある。
社長「おお、ここならいいな。
建物は使えそうか?」
スカオ「はい、調べましたが
築5年ですね。
事情は教えて貰えなかったんですが、
新築後まもなく物流センターが
立ち退いたという事です。
これなら、建て直さなくても、
ちょっと手を入れるだけで使えます」
社長「スカオ、いいところ
見つけたじゃないか。
よし、話を進めて貰おうか」
気さくな社長は、俺だけでなく
社員のほとんどを下の名前で呼ぶ。
確か、学生時代はアメリカに
留学していた人だ。
いろいろ、進んだ考えを
持っていると評判になっている。
俺は、社屋移転プロジェクトの
責任者に任命された。
そうと決まれば、善は急げ。
総務部や設計部を動員し、
物流センター跡地を買い取る方向で
行動を開始した。
動き始めてすぐ、物流センターが
立ち退いた理由かもしれない、
重大な情報をキャッチした。
住宅街に近いので、重機など、
大きな音が出る乗り物が出入りする際の
騒音対策をしなければならない。
今までは、30キロも離れた隣の市の
外れに置き場を借りていたのだが、
せっかく広いので、
ぜひここに重機を置きたいと考えている。
町内会長だという
60代くらいの男性と面談した。
自宅を訪ね、話を詰める。
会長「重機ですか」
スカオ「毎日稼働する
わけではありません。
排気音なども、音が静かになるように
工夫しております」
会長「まあ、そこはいいんですけどね。
物流センターが立ち退いた理由を
ご存じですか?」
スカオ「いいえ、不動産業者は
はっきりとは教えてくれませんでした」
会長「無断駐車が多かったせいなんですよ」
会長は、事情を話してくれた。
なんでも、物流センターはトラックが
24時間体制で出入りする。
それで駐車場を閉鎖する事が出来なかった。
広い敷地が、まるまる解放されているように、
一部の運転手には見えていたらしい。
しょっちゅう車が止まるようになり、
センターの職員ともめていたという。
会長「敷地内でトラックとの
接触事故があったそうで、
かなり揉めたと聞いてます。
その後すぐ、物流センターは移転しましたよ。
三階建てのオフィスビルが完成して、
間もなくの事だったですねえ」
なるほど、だから割安物件だったのか。
これは、対策が必要になるな。
俺は、駐車場を柵で囲み、
無断で侵入できないように
対処する方法を考えた。
スカオ「ありがとうございます。
さっそく、弊社の社長に報告して、
対策を行う事になると思います」
大事な話を聞いたので、
急いで会社に戻った。
俺の報告を聞いた社長も、
同じように考えたようだ。
社長「そうだな、敷地は柵で囲って、
中央の出入り口にはシャッターをつけるか。
社員証と連動させて、
関係者以外は立ち入り禁止。
お客さんは、アポイントをとってもらって、
社員がシャッター操作する。
これでかなり被害は抑えられるだろう」
社長の決断で、物件買取の話も進んだ。