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本編
そんな事が昨日の夜あったのだけど、
リョウスケは知らないらしい。
頭シンプル不倫女も、
夫のスマホを勝手にいじった形跡を
残しておくのはまずい、
くらいは考えたようだ。
そっちで消しても、
こっちには残ってるけどね。
愛しのカノジョに全てを
ばらされたなんて、
かけらも思っちゃいない夫。
秘密だだ洩れにした張本人のくせに、
自分も責任とらされとは、
考えても居ないらしい浮気相手。
まったく、この不倫カップルは
とんだお花畑の住人だ。
明日あたり、現実を見せてやろうかしらね。
そこはお花畑どころか、
焼け野原だって現実をね。
朝、私はリョウスケを送り出してから、
速攻で動いた。
目標は三つ。
まず第一はリョウスケに制裁、
次はナルミを叩きのめす、
最後は私に有利な形での離婚を勝ち取る。
そのためには、どうしても協力者が必要だ。
私に興信所を紹介してくれた、
リョウスケにとってただ一人の
「上司」にあたる、私の父へ、
話を持って行った。
午後になって、私は久しぶりに、
会社が入居しているビジネスビルを訪れた。
正確には、代表取締役会長である
父の秘書という立場で、
父の出社に同伴して。
エントランスをくぐると、
さっそく受付の女性二名が立ち上がって
深々とお辞儀をした。
父と私は、オフィスに乗り込んだ。
社員達がざわつき、
そしてやはり全員が総立ちになる。
父「社長は?」
社員(20代女性)「外出されています」
父「今すぐ呼び戻してくれ。
会長が呼んでいると」
そして、社長室へ。
父は、3年ぶりに社長のデスクについた。
この会社は、父が立ち上げた。
3年前に、一人娘の私がリョウスケと
結婚した際、社長を夫に引き継がせた。
そして、父は代表権がある会長に就任、
私は秘書を辞めた。
これが、専業主婦になったとある事情だ。
父は身内びいきと思われるのを嫌がって、
私に身を引くよう言ったのだ。
逆に言えば、リョウスケが退任して
会社を去れば、すぐ復帰できる。
父「スカ子、いいんだな?」
スカ子「もちろんです、会長」
父の問いかけに返事をした時、
リョウスケが大慌てで
社長室に飛び込んできた。
社長席の後ろに立つ、
スーツ姿の私を見て、目を丸くしている。
リョウスケ「え?
なんでスカ子が?」
父「心当たりが無いとでもいうのかね」
父は、私が提出した証拠写真を
デスクにどんと置いた。
リョウスケが真っ青になる。
父はさらに夫を睨みつけて
父「写真で足りないなら、
動画もあるぞ。
この年で、あんなものを見る羽目に
なるとは思いもよらなかった」
リョウスケ「ど、動画とおっしゃいますと」
父「ナルミさんだったかね?
取引先の女性社員に
手を出すとは、いい度胸だ」
リョウスケ「ひえっ」
ようやく、思い当たったらしい。
リョウスケは真っ青から真っ赤に
なって、へたへたと座り込んだ。
スカ子「たいへん、協力的な女性でした。
社長とご家庭をお持ちになりたい一心で、
動画まで差し出してくださって。
何でも、純愛だそうで。
羨ましい限りです」
リョウスケ「ス、スカ子!?
見たのか?
あれを、見たのか!?」
スカ子「せっかくの、
ナルミさんのご厚意でしたので。
拝見させて頂きました」
リョウスケ「うわあああああ!」
リョウスケは頭をかきむしり、
目を大きく見開いて、
首を激しく左右に振った。
リョウスケ「お、終わりだ……
俺は終わりだぁ!」
スカ子「終わりのうえに、お笑いですね」
冷たく言って差し上げる。
リョウスケはがっくり肩を落とし、
背筋を丸くしてしまった。
父は容赦がなかった。
父「君は社長としてふさわしくない。
取引先との不祥事と、
社内風紀を乱した責任を取ってもらう。
解任を覚悟しておけ!」
リョウスケ「も、申し訳ありません。
ですが、何とかチャンスを」
父「あるか、そんなもの!
解任が嫌なら、いますぐ辞表を書いてこい!」
父に一喝されて、
リョウスケは観念したらしい。
黙って立ち上がり、
ふらふら社長室を出て行った。
その後、ナルミにもきっちりお仕置きした。
先方へ行って、表向きは謝罪の名目、
実態は大暴露作戦を決行。
父「将来ある若いお嬢さんに、
申し訳ない事をしました」
父の言葉で、取引先は大騒ぎになり、
ナルミもお偉いさん方が
勢ぞろいの会議室に呼び出された。
あちこちから厳しく追及され
ナルミ「だって、リョウスケ君と
結婚したかったんだもん!
社長夫人になりたかったんだもん!」
会社員とは思えない取り乱しぶりで号泣した。
私は、そんなナルミに向かって
スカ子「残念ですが、
社長は本日付で退職されました」
びしっと一言。
ナルミは一瞬泣き止んで、ぼう然となった。
社長夫人どころか、今の立場も危ういし、
もちろん慰謝料請求もする。
ナルミの将来は、お先真っ暗だろう。
その後は、弁護士に入って貰って離
婚を成立させた。
慰謝料は双方合わせて550万。
弁護士によると、事務所に来た二人は、
大喧嘩したらしい。
ナルミはリョウスケにすがったが、
決定的証拠を出してしまった彼女に対して
ご立腹な彼が応じるわけもなく。
ナルミ「リョウスケ君の嘘つき!
どんな時でも守るって
言ってくれたくせに!」
リョウスケ「俺を破滅させておいて、
守ってくれだと?
どの口が言うんだ、どの口が!」
みっともなく内輪もめして、
慰謝料を押し付け合い、
しまいには弁護士に叱られたという。
さんざん騒いで、元夫から400万、
浮気相手から150万で話がついたと聞いた。
二人とも、愛も職も失って、
さらになけなしの財産も失ったというわけだ。
私はすっきりして、また秘書に復帰。
父も代表取締役社長と
会長を兼任する事になり、
今までは月一回だった出社を、毎日に改めた。
さぁ、がんばろう!