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本編
私はスカ子。
現在、夫の不倫に悩む既婚女性だ。
うーん、厳密には不倫自体にはもう
諦めがついているというか、
どうでもよくなっているというか。
頭を痛めているのは夫へどう対応するか、
そして浮気相手のナルミとかいう女性について。
このナルミ、なかなかのくせ者だった。
夫リョウスケの様子がおかしいと
気づいたのは、だいたい半年前の事だった。
結婚3年目、世間では倦怠期が訪れる
時期と言われているらしい。
我が家もどうやら、
そのジンクスに当てはまったようで。
リョウスケ
「明日は休日出勤になったから」
帰宅早々、ネクタイを外しながら
リョウスケが伝えて来た。
最初、私は夫が立場上かなりの
多忙だと知っていた。
いつもの事だとしか思わずに
スカ子「分かったわ。
何時に起こせばいい?」
気軽に聞いた。
夫は、出勤時間がまちまちで、
午後から出る事もある。
休日出勤は特に、決まった時間に
出社というケースが少なかった。
いつも通りの確認のつもりだったけれど
リョウスケ「いや、いいよ。
自分で起きるから。
朝早いんだ、スカ子は寝ていなよ」
初めてこんな事を言われた。
それまでは、たとえば10時には
起きたいとか、出社は13時だけど
昼食と打ち合わせがあるから、
11時には家を出るとか。
こんな風に細かく
スケジュールを教えられ、
起こす責任まで背負わされていたのに。
急に、自力で起きるとか
言い出した挙句、寝ていなよとまで。
それまでは
リョウスケ「仕事に出る旦那を、
奥さんが玄関で見送る
っていうのが筋だよな?
その方が、俺もやる気でる」
なんて言ってたくせに。
あまりの急変ぶり、
ピンときたわね。ええ、きましたとも。
スカ子(何か、隠してるっぽいわ)
そんな感じで疑いを持った。
回数を重ねるうちに、
疑惑は確信へと成長を遂げた。
リョウスケの帰りが遅いばかりで、
早く帰ってくる日が、
以前はあったのに無くなった。
微妙に、シャツの香りが朝と違ったり、
髪が洗い立てのようにさらさらだったり。
何よりも、スマホを手放さなくなった。
スカ子(これは、
女がいるとしか思えないなぁ)
決定打は、スーツに物証が
残っていた事だ。
左肩に、明るい茶色の
長い髪の毛がついていた。
私はショートヘアで、
髪を染めた経験は一度も無い。
どこからどう見ても、私ではない女性が、
夫の肩に頭を乗せた状況の証拠だった。
スカ子(ふーん。
これは調査が必要かな)
私は、興信所に依頼しようと決めた。
ただし、心当たりがまるでなくて、
やむなく身近で人脈豊富な人物に頼った。
紹介を受け、夫の身辺調査を
頼んだのが、1ヶ月前だ。
そして、結果が明らかになった。
興信所職員(40代男性)
「残念ですが、奥様のお見立て通りでした」
スカ子「やっぱりね」
しっかりばっちり、ホテル街を歩く
夫と知らない若い女性の写真、
公園キスの写真、その他もろもろ。
さすがはプロというべきか、
音声データまで抑えていた。
スカ子「ナルミというのね、この女性」
職員「当方の調査によりますと、
ご主人の会社と取引がある企業に
勤務していますね。
21歳の受付嬢です」
スカ子「21歳。ほんとに若いわね」
驚いた。
私は29歳で、リョウスケは32歳。
21歳のお嬢さんにとって、
11歳も年上の夫の、いったいどこが
そんなに良かったのだろう。
妻の私が言うのも何だけど、
夫の外見は悪くは無いものの、
若者受けするようなイケメンではない。
まあ、頑張って
雰囲気イケメンっていうやつ?
社会的地位に釣り合うよう、
服装や持ち物には気を遣っているので、
大人の金持ちに見えると言えば、
見えるかもね。
スカ子「おおかた、リョウスケの
肩書が目当てなんでしょうけど」
職員「そこまでは調査が及びませんでした。
ただ、ご主人がかなり熱を上げて
いらっしゃる事は間違いないです」
報告を聞き終わり、
私は待ち合わせに使ったファミレスを出た。
自宅に足を向けつつ、
今後について考える。
とある事情から、
私は今は専業主婦をしている。
しかし、復帰は簡単だ。
仕事のめどが立ちさえすれば、
とっとと離婚するのも私的にはOK。
ただ、普通に別れるのは
面白くないなぁとも思っている。
どうするか深く深く考えているうちに、
時間だけが過ぎていた。
リョウスケは、バレているとは
思っても居ないらしい。
相変わらず深夜の帰宅、
出勤は気まぐれのように、
早かったり遅かったり。
スカ子「最近は忙しいのね?
全然休みが無いじゃない。
休日出勤ばかりで」
リョウスケ「俺もそれが
悩みなんだよな。
半休でいいから、少しは息抜きしたいよ」
いけしゃあしゃあと、リョウスケは
眉を寄せてしかめ面を作り、
休めないと嘆いた。
よく言うわ。
この人、完全に私にまつわる
あれこれを忘れているみたい。
スカ子「そうなの。
何か、大きなプロジェクトでも始まったの?」
リョウスケ「まあ、そんなところだ。
部下に頑張れと言ってる以上、
俺が休むわけにもいかない」
スカ子「そうかな?
むしろ、あなたの立場が
率先して休まなきゃ、
みんな休みたくても遠慮して
休めないんじゃない?」
リョウスケ「それもそうだけど、
今は大事な時なんだ。
もうひと踏ん張りして、落ち着いたら、
少し長めの休暇を取ろうと思っている」
スカ子「健康には気を付けてね」
リョウスケ「ああ、ありがとう」
ほんとに、いけしゃあしゃあ
という言葉がぴったりだ。
こんなに上手に嘘をつける人だとは、
思っていなかった。
ショック過ぎて、あぶなく昨日の夜に
起きた「事件」をぶちまけるところだったわ。
それは、昨日の夜9時。
どうせ夫は帰りが遅いうえに、
食事を済ませて来るだろうと、
ここ半年の行動パターンから
見当をつけて、ゆっくりしていた。
リビングで適当にテレビを見ていたら、
急にリョウスケからLINEが入ったのだ。