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本編

嫁は俺の手際の良さに少し

戸惑っているようだったが、

俺が離婚届を手に取ると、自分も

一覧表を手に取って確認し始めた。

俺はその場で公証役場に電話を

かけて、嫁の予定も確認しながら

予約を取った。

 

俺「もし何か加えたい条件が

出てきたら、当日慌てずに済むように

予約日の前日までに連絡してくれ。

それじゃあ、俺はこのまま

部屋で残りの荷物をまとめるよ」

 

嫁「…分かった」

 

車に積んできたダンボールの束と

ガムテープを持ち込み、俺は部屋で

自分の荷物を詰め始めた。

服や雑貨を黙々と箱に詰める俺の横

で、嫁はずっとスマホを触りながら、

横目で俺を監視しているようだった。

俺は小さくため息をつきながら

箱詰めを終え、わずか数箱の

俺の持ち物を車に積み込む。

つい十日ほど前まで

“俺の家”だったはずの家は、

もう完全に“無関係の家”

となってしまったのだった…。

 

娘は自室に籠っているようで、

帰る時に声を掛けても返事は無く、

顔も見せてはくれなかった……。

 

予約当日、公証役場の前で

待ち合わせた俺達は、公正証書の

手続きを無事に終える事が出来た。

さらにその足で役所に行って

離婚届を提出し、

俺と嫁は、晴れて他人となった…。

 

(あっけないな…。夫婦って所詮、

こんなもんか……。)

 

役所の玄関で、別れ際に、俺は鞄から

ぶ厚く膨れた封筒を取り出した。

 

俺「じゃあ、これ。約束の手切れ金」

 

嫁は、奪い取るように封筒を受け取る

と、その場で中身を覗き込んだ。

あんなに穏やかで、いつも

ニコニコ笑っていた嫁は

一体どこへ消えてしまったのか?

浅ましい姿に、嫁への情の

最後のひとカケラさえ、

綺麗さっぱり消えていくようだった。

 

俺「それから、これ。

君への最後の贈り物」