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本編
ユリカ「えー?
何なの、よそよそしい
言葉遣いして。感じ悪ーい。
私が、そっちのグループに
行かないのが気に入らないの?
だってあんた達、うるさいんだもの」
アスカ「そういう事じゃないです。
前から注意していますよね?
お子さんを放って
おかないでくださいって」
ユリカ「まだ言ってる。
私も、何度も言ってるじゃない。
子供なんてあんなものだって。
騒ぐのが仕事なの。
何を言っても聞きやしないんだし、
時々見ていればいいでしょ?」
アスカ「子供は騒ぐのが仕事ですか。
なら、騒ぐ子供をしつけるのが、
親の仕事だと思いますよ。
仕事をさぼらないでください」
以前から、揉めるのを覚悟してでも、
厳しめに言うべきだと考えていた私は、
ここぞとばかりに言い返した。
ユリカはむかっときたらしい。
凄い顔で、私をにらみつけた。
ユリカ「はぁ!?
あんた、何様よ?
先生でもないくせに、
あれこれ指図しないでよ。
さぼるなって、何よ!」
だんだん興奮してきたのだろう。
声が上ずり、語気も荒くなっていた。
ここで怯んでは、元の木阿弥だ。
私も少し身を乗り出した。
アスカ「先生とか、
今は関係ないでしょう。
サクトくんを放っておいたら、
本人もあぶないし、
周囲に迷惑も掛かります。
誰か怪我人が出てからでは
遅いんですよ」
ユリカ「だったら、
あんたがサクトを止めれば?
私に文句言ってる暇があるなら、
さっさと行きなさいよ!
何なのよ、ごちゃごちゃと!
私、あんたが前から
気に入らなかったのよね。
ランチ会もやらないとか、
勝手に仕切ってさぁ!
ついでに、グループのみんなに
伝えておきなさいよ!
私に戻って欲しかったら、
あんたをグループから
追い出しておきなって!」
ユリカは興奮のあげく、
暴走し始めたようだ。
暴言が止まらない。
早口でまくしたてて、
しかも手に持っていた
紙コップを振り上げた。
コーヒーらしい黒い液体が、
周囲にまき散らされた。
ユリカ「いつも優等生ぶって、腹立つ!」
私めがけて、投げつけて来た!
びっくりして横に逃げる。
紙コップは、力が入り過ぎたのか、
私を通り越して飛んで行った。
そして、次の瞬間
男性「うわっ」
背後から、男性の驚いた声が聞こえた。
振り返ると、知らない男性が
コーヒーまみれになっていた。
男性「熱っ!
なんだこれ!?
コーヒーか?」
かなりごついタイプの男性だ。
まさか、その筋の人ではないと
思うけれど、見た目からして気が荒そう。
私と、一緒に来たママ友が男性に駈け寄った。
ママ友「大丈夫ですか?
やけどは?」
アスカ「ハンカチどうぞ。
すみません、巻き込んでしまって」
慌ててハンカチを
差し出しながら謝った。
すると、男性は私を見ずに、
違うところを睨んだ。
男性「いや、お宅じゃない。
そっちの女性だろう、
いま紙コップ投げたのは。見てたぞ」
ユリカ「わ、私は悪くないわよ!
アスカが悪いんでしょ!」
この期に及んでも、
ユリカは開き直りをやめなかった。
それが、男性を怒らせたようだ。
ただでさえいかついのに、
なおさら表情が厳しくなった。
悪い事は重なるもので、
とうとう恐れていたことも
起きてしまった。
近くで、お年寄りの悲鳴が聞こえた。
思わず全員が声のした方を向いた。
70代くらいと思われるお年寄りの男性が、
しりもちをついていた。
一緒になって、サクトくんも転んでいる。
サクト「いたぁーい!ママーっ」
サクトくんは泣き出して、
こちらに助けを求めるように手を伸ばした。
明らかに、ユリカへ向かって言っている。
しかし、なんとユリカは無視した。
アスカ「ユリカさん!
サクトくんが転んでいますよ!
これも、放っておくんですか!?」
頭にきて、私は怒鳴っていた。
ユリカは開き直りから一転、
おろおろし始めた。
男性が、ずいっと前に出た。
男性「さっきから走り回ってた
チビスケの母親か、お宅。
何やってんだよ!
さっさと助けろ。母親失格か!」
叱りつけられ、ユリカは
大慌てでサクトくんに走り寄った。
男性も後をついて行き
男性「こらっ、チビスケ!
こんな大勢のいるところで、
走るんじゃない!
あと、おじいさんに謝れっ」
サクト君も叱った。
父親以外の、大人の男性に
生まれて初めて大声で怒鳴られたのだろう。
子供らしく震え上がって、涙目でお年寄りに
サクト「ごめんなさい」
謝った。
ここでようやく、ユリカも黙った。
自分本位な文句を言うのをやめ、謝っている。
男性「これに懲りたら、
二度と騒ぐなよ、ちび。
それからお宅。
母親なら、厳しくするべき時は、
きちんと厳しくしろ。
叱るのも愛情だぞ」
男性はそう言うと、
立ち去って行った。
どこのどなたか存じませんが、
ありがとう。
私は、救いの神になってくれた男性に、
そっと頭を下げた。
その後。
バザーは無事に終了し、
これ以上の騒ぎは起きなかった。
後で聞いたら、男性はどうやら
園児のパパさんだったらしい。
現場系のお仕事をしているらしく、
厳しいけれど良い人だという。
確かに良い人だ、幼稚園きっての
問題児親子を、すっかり
大人しくさせたのだから。
ユリカは話を聞いたご主人から
こっぴどく叱られ、
しかも義実家同居になったそうだ。
食事の支度が面倒くさいという
悪い癖を叩き直されているという。
サクトくんも、改めて
しつけし直されているとも聞いた。
アスカ「さっくんはどう?
静かになった?」
ミオ「うん、いい子にしてるよ。
男の子が怖くなくなったから、
弟君でもいいなぁ」
娘に聞いたら、だいぶ変わったらしい。
やっぱり根は悪い子では
なかったのだろう。
おかげで、ミオも考えが少し変わった。
私は、穏やかになった日常を、
今日も娘と楽しんでいる。
終