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本編

今にして思えば、契約成功おめでとう

の純粋な意味で、缶ビールを

ふるまっておいて良かった。

ケイタはお酒にあまり強くない。

その割に飲みたがるのだけど、

今回ばかりはそれが功を奏した。

 

夫はビールを飲んだ後、

ソファで寝てしまったのだろう。

本当なら、もっと早くに

行動を起こすはずだったのだろうし、

今こうしてスマホが騒々しく

なるはずもなかったのだ。

 

しばらく放置しておいたのだけど、

鳴りやむ様子はない。

うるさいので、

とりあえずは返事しておこうか。

 

アスカ「何?」

 

ケイタ「何、じゃないよ!

アスカもナナも、どうして家に

いないんだ!?

それと、俺のサブスマホもない!」

 

アスカ「ああ、ごめんね。

ちょっと急いでいたのよ。

うちの父が階段から落ちたって、

実家から連絡がきたの」

 

やり取りしながら、

ぴんとひらめいた。

電話でいろいろ追及しても、

きっと埒が明かない。

むしろ実家へ呼びつけて、

逃げ道をふさいでから

追い詰めてやろう、とね。

 

アスカ「実は意識不明なのよ。

父は年も年だし、万が一に備えて、

母が私を呼んだの。ほら、

私は一人っ子でしょ?

お父さんが心配なの」

 

ケイタ「あ、そうなのか」

 

アスカ「ケイタは今日も仕事

だろうし、起こすのは遠慮したわ。

母が、万が一のために、相続に

ついても話しておきたいっていうし」

 

軽く餌をまいてみたら、

奴は見事に食いついた。

 

ケイタ「相続!?なるほど、

アスカは一人っ子だものな。

そういう事なら、

俺もそっちに行くよ」

 

おい!そういう事ならって何よ、

そういう事ならって。

露骨すぎてドン引き。

遺産相続の話に、自分も混ぜて

ほしいっていう下心が丸見え。